話に聞いたことがあるぐらいだった。
ホストもキャバクラ嬢も煌びやかな夜の街に
馴染んでいて、あたしだけ場違いな気がした。
あたしは、夕飯の準備をする主婦たちで賑わう
あたしの街の商店街のが好きだ。
「あなた、弱いの?」
逃げるってことは腕っ節が弱いんだと思った。
「んー?それ、俺に聞くか。1人だったら
まだいいけどな。お前庇って戦えねえだろ。
怪我させたら面倒くせーしな。」
「ほら、あなた馬鹿じゃない。」
あたしの言葉にククッとまた喉を鳴らして笑った。
夜って街をよく知ってるんだと思った。
たまに、頭を下げられてるこの男の正体は一体何者?
「ちっと、休憩すっか。」
さすがに、疲れたのかと思った。
「・・・・・なっ、ハレンチ!」
目の前にあるピンクのお店に入ろうとするのを
地面に足を付けて動かなかった。
「仕方ねえだろ。休めるとこなんざここ以外知らねえ!!」
「だったら、貴様1人で行けっ!」
「んなの意味ねえだろーが。黙って着いてこい。」
「や、やだ!あたしは清き乙女で居たいもの。」
こんなハレンチなところには決して踏み入らんぞ。
「言うこと利かねえなら無理やり連れてくぞ。」
「や、野蛮な人ね!」
ぴ、ピンチが到来したとはまさにこのこと。
それでも、まだ本を片手に読んでいる。
これは、もしかしたらあたしの妄想が爆裂しちゃった
のかもしれないという希望に託した。
「日和ちゃん」
雑踏の中でもあたしを見つけ出すなんて
どんな仕掛けしてるのさ?
「一緒に帰ろう、こんなところ日和ちゃんには似合わない。」
優しい声色が強ばったような気がした。
恐る恐る見上げる先にはブラックオーラ全開の
馨君が佇んでいてそれでも知らない土地で
知らない人に振り回されているあたしには
不思議とそれまでの不安なんて吹き飛んだ。

