Hurly-Burly 5 【完】


口を開く瞬間すらわざとらしい。

煙草を紙袋の持つ手に変えると、あたしの

手首を自分の顔に近づけた。

「ひっい!」

伊織君に匹敵するほど色気を放つ男に鳥肌が立った。

こいつは駄目だと赤信号が発した。

「あんた、おもしれーな。」

「さ、触るな!放せ!見逃してええええっ!!」

大声で喚いたところで周りに人がいる訳もなく、

車が何台か通過する。

さも、あたしと目の前に居る男が透明人間に

でもなってしまったかの如くで虚しくなった。

「悪ぃーが、俺がどうとかの前にあんたが

タチの悪るそうな奴らに絡まれてたんだぜ?」

ったく、まるで俺が悪もんみてぇーだなと

呟く男にギョッとした。

「そ、それは失礼をした。ご、ごめんなさい。」

見た目の迫力だけで人を決め付けるとこだった。

悪い人ではないのか?

まだ、信用出来るに値するかは決められないが、

見た目だけで判断するのは良くない。

一瞬驚くような顔をした男が口角を上げた。

「変わったヤツだな―――――」

「よく言われるわ。あの、お世話になった

ことにはお礼を言いますが、あたしこれから」

「助けて貰っといてタダで返してもらおうなんざ

生ぬるいこと考えんなよ?」

鬼のような悪魔のような鋭い視線に身震いした。

こ、この人、本気だ!

そして、絶対職業ヤクザで決定だ。

「の、ノーセンキュー!!」

助けてなんて言ってないよ。

勝手に助けたのあんただろ!

そんなものボランティアでいいじゃないか!

「んじゃ、今そこでひん剥いてやんぞ?」

手首がギリっと締め付けられた。

それは力の支配というものだ。

恐怖を植え付けさせて逃げられないようにする。

「あなた、犯罪者になりたいの?」

だけど、あたしは屈しなかった!

強い精神力へと鍛えられたのは日頃不良メンバーズと

腕相撲したりしてるおかげだと思う。