お兄ちゃんは頑張り屋さんだから体壊して

なきゃいいけどって心配してる。

「朔夜さんね、日和ちゃんのことすごく心配してたわ。

それからね、すごく可愛いって自慢してたのよ。

だから、会える日が来るのすごく楽しみにしてたんだから!」

「えへへっ、お兄ちゃん恥ずかしいよ。」

「日和ちゃんは向こうに行ったりしないの?」

何気なく聞いてきた菜南子先生の言葉に

詰まって黙るあたしにサユが咄嗟に話題を変えた。

ずっと、この街で育ってきた。

それ以上にこの街はあたしにとって大きい。

その分、この街を長い期間離れることに

躊躇いがあるんだ。

飛行機にも乗ったことがないから怖いと思ってる。

臆病なのかもしれない。

新しい世界に踏み出す勇気が足りない。

行ってみたいって好奇心は膨らむばかりで、

それと同時にここから離れたくないって思う気持ちが強い。

あの家を守るという使命を放棄することも出来ない。

サユと菜南子先生の談笑を遠目にお兄ちゃんを

思い浮かべて目を瞑った。

あたしの知らない世界が広がってる。

その世界に行ってみたいと何度思っただろうか。

「じゃあ、日和また明日ね。」

サユが家の中に入るのを見てすぐに家の前に

車を止めて駐車スペースに入れた菜南子先生に

家に上がって貰う。

ドキドキしながらリビングでお茶を出した。

お兄ちゃんも兄ちゃんも彼女って連れてきたことない。

モテるくせに何をしてたのか。

初めてのことにそれなりに緊張してた。

でも、菜南子先生はそれを気づいていたのか、

夕飯作りを一緒にしてくれて本当にお姉ちゃんが

出来たみたいで打ち解けられた。

「日和ちゃんって本当に何でも出来るのね?」

「いえ、まだまだ修行のみですからに。」

今日は寒いからシチューとシーザーサラダに、

パエリアという洋風な夕飯を用意した。

兄ちゃんが廊下をバタバタ駆けて来る音が

聞こえてリビングの扉をドバンっと開けて、

ただいまと叫んだ。

我が兄にしてとてつもなく煩いです。

元気すぎて困るのですが、菜南子先生は笑みを

浮かべておかえりと兄ちゃんに近づいて、

鞄を受け取った。