緩く笑みを浮かべる彼が何を考えているのか
さっぱり分からなかった。
「と言っても、あたしはやれば出来る子なので
出来て当然のことなのですよ。」
こんなことぐらい出来ないでどうするんだ!
「ヒヨリン、威張るなよ・・・」
テレビの前でげんなりしたユウヤ。
「なっ!あたしに不可能という文字はないものっ!!」
「わーった。わーったから静まれ。」
「け、慶詩があたしに指図をするなんて100億光年
早いんだからな!」
耳を押さえる慶詩にケッと思いながらケーキをザクザク切る。
ふわっと甘い香りが漂う。
「ヒヨリン、量多くないか?」
「みんなの分もあるから当然だ。」
ユウヤがテレビからギョッと視線を向けてきた。
「あ、食べられなかったら冷蔵庫に入れておいて
別の日に食べてもいいからね。」
夕飯前に食べたら太っちゃうんだっけ?
その前に、そんなこと気にするかな?
「日和ちゃん、毎回大変じゃない?」
「えっ、そんなことないよ?作るの
楽しいから食べてくれると助かるんだ。
あっ、でも飽きちゃうよね。レシピに
工夫を凝らしてみるわ!」
馨君がマグカップを持ちながら困ったように笑った。
飽きられないような新作を作ってやろうではないか!
ソファーでコーヒーをダバダバ流し込んだ。
「日和ちゃん、落ち着いてゆっくり」
馨君が目を瞬かせる。
あたしの一気飲みを見て唖然としたのであろう。
「では、用件は済みましたので帰りますね!!」
今日は予定が詰まってるのよね。
帰って、永瀬家の男性陣へのバレンタイン支度が
すでに始まっているとかで一刻を争う。
「え、ひよっ」
「あ、送りはいいです。一刻を争うので
ダッシュで帰りますからご安心下さい!」
鞄を手に素早くソファーから立ち上がった。
みんながコーヒーを口に付けて状況を理解
しない内に手を上げて「あばよ!」と言って
玄関まで急いで駆け込んだ。

