かと思ってみれば、エレベーターのドアを閉めずに
ムスっとしながら立ち尽くしていた。
そこでこのマンションの住民であろう男性が、
あたしに視線を向けてペコリと頭を下げると
逃げるように去っていた。
「な、何したんだ!?」
怖がられてたじゃないか!
今の人、明らかに勘違いしてたよ。
次々とエレベーターに乗り込むみんなを
よそに心配で堪らなくなった。
もしや、ここの住民に嫌われてるわけじゃないよね?
そしたら、またみんな傷付くよ。
どこでも同じような対応されたらさすがに疲れる。
「早く、乗れ。」
「ま、待ちたまえ!」
やっぱり、誤解は解いておくに越したことはない。
「はっ!?」
慶詩の声なんて聞かずにエレベーターには入らず、
エントランスに来た道を戻った。
あ、良かった。まだ、外に出ていなかったさっきの
スーツ姿の男性に声を掛けた。
「あの!」
ただ、誤解を解きたいがためだった。
「はい?」
振り返る顔は困惑に満ち溢れてた。
それでも、どうしてもあたしは何とかしたかった。
少しでも敵を少なくしてあげたいと思った。
こんな世界に住んでれば多くの敵を作る。
その分、傷付く可能性は増えていく。
強いのはよく分かるけど、体の傷じゃなくて
心の傷をたくさん作って欲しくない。
これだけは、どうしても体術の強さじゃ防ぎきれない。
「わ、悪いように見えて案外良い子なんです!
だ、だから、その彼らを真っ向から怖がらないで欲しいのです。」
その分、あたしが防いでやる。
何を言われたって引き受けてやる。
「君は脅されてるの?」
「あたしが好きでここに来ています。一般人を
脅すようなことをしたらあたしが叱りつけておきます!
だから、怯えないであげてください。挨拶をしようとか
目を合わせようとかそんなのはいいんです。
ただ、怯えたりしないであげて欲しいと」
「それをわざわざ言いに?」
サラリーマン風の男が顔を上げて、あたしを
見ると分かりましたと言ってエントランスを後にした。

