ただ、こういう時じゃないと感謝を形に
残せない気がした。
マンションに着いてすぐにエントランスへ急いだ。
「オメェ、一人で先走ってどうすんだ?」
「だ、だって、善は急げって言うではないか!」
慶詩がため息を吐き出しながら心底残念そうに
視線を向けてきた。
「大体、日和ちゃんには危機感が欠けてるよ。」
馨君が困ったように笑いながら目を細める。
「き、危機感ですと!?」
「簡単に家に入っちゃ駄目だよ?」
馨君がにっこりと微笑みながらも言葉に
力が篭っているような気がして背筋が伸びた。
「な、何で駄目なのだろうか?」
「ひよちゃ~ん、純粋無垢ってのも案外厄介なもんよ?」
い、意味が分からないよ伊織君!
「ほら、分かってねえじゃねーの。」
「も、もしや、あたしはまだ友達でもないと
今更それを出しちゃうのか!?」
「だから、分かってねえーの。」
伊織君、君は分かっているのだな?
「な、何が分からないっていうのさ!」
あたしの頭を馬鹿にしてるのね!!
絶対に、馬鹿じゃないって証明してやるからな!
「世の中の男は大概の90パーセントはヤラしい
こと考えてるってのを覚えとけよ。」
「・・・・・えっ!?」
や、ヤラしい!?
「あ、あたしはちんちくりんだから心配要らん!」
「ほれ、見ろ。その疑わねえとこが漬け込まれんだ。」
「伊織君、漬物が趣味だったの!?」
し、知らなかった!
そんなおばあちゃんっぽい趣味があったなんて
あたしは感激だよ。
漬物好きだもんよ!今度、何か美味しい漬物教えてもらおう。
パシッと額を押さえて呆れる伊織君と、
白い目を多数に引き受けた。
「日和ちゃん、ここや横山とかならまだ大丈夫だとは
思うけど、他の男の家に簡単に入っちゃ駄目だよ。」
「えっ!?何故に?よ、よっちゃんのお家にお邪魔しちゃったよ?
ももっちの家に漫画借りに行ったよ!?
もっくんのお家に遊びに行っちゃったよ!!」
そ、それがタブーだったとは!!
「あ、そこらへんは安全地帯だから大丈夫。」
馨君がにっこりと微笑みながらも頷こうかって
顔が言ってるようで恐ろしい。

