Hurly-Burly 5 【完】


ただ、こういう時じゃないと感謝を形に

残せない気がした。

マンションに着いてすぐにエントランスへ急いだ。

「オメェ、一人で先走ってどうすんだ?」

「だ、だって、善は急げって言うではないか!」

慶詩がため息を吐き出しながら心底残念そうに

視線を向けてきた。

「大体、日和ちゃんには危機感が欠けてるよ。」

馨君が困ったように笑いながら目を細める。

「き、危機感ですと!?」

「簡単に家に入っちゃ駄目だよ?」

馨君がにっこりと微笑みながらも言葉に

力が篭っているような気がして背筋が伸びた。

「な、何で駄目なのだろうか?」

「ひよちゃ~ん、純粋無垢ってのも案外厄介なもんよ?」

い、意味が分からないよ伊織君!

「ほら、分かってねえじゃねーの。」

「も、もしや、あたしはまだ友達でもないと

今更それを出しちゃうのか!?」

「だから、分かってねえーの。」

伊織君、君は分かっているのだな?

「な、何が分からないっていうのさ!」

あたしの頭を馬鹿にしてるのね!!

絶対に、馬鹿じゃないって証明してやるからな!

「世の中の男は大概の90パーセントはヤラしい

こと考えてるってのを覚えとけよ。」

「・・・・・えっ!?」

や、ヤラしい!?

「あ、あたしはちんちくりんだから心配要らん!」

「ほれ、見ろ。その疑わねえとこが漬け込まれんだ。」

「伊織君、漬物が趣味だったの!?」

し、知らなかった!

そんなおばあちゃんっぽい趣味があったなんて

あたしは感激だよ。

漬物好きだもんよ!今度、何か美味しい漬物教えてもらおう。

パシッと額を押さえて呆れる伊織君と、

白い目を多数に引き受けた。

「日和ちゃん、ここや横山とかならまだ大丈夫だとは

思うけど、他の男の家に簡単に入っちゃ駄目だよ。」

「えっ!?何故に?よ、よっちゃんのお家にお邪魔しちゃったよ?

ももっちの家に漫画借りに行ったよ!?

もっくんのお家に遊びに行っちゃったよ!!」

そ、それがタブーだったとは!!

「あ、そこらへんは安全地帯だから大丈夫。」

馨君がにっこりと微笑みながらも頷こうかって

顔が言ってるようで恐ろしい。