その瞳に写した影はどこか切なげ。
「ほら、ひーちゃん頭良い癖にそういうとこだけは
弱い頭脳っていうのか。俺なんて何度振られたことだかねー。」
「アイツは母ちゃんに似てっとこ多いかんな。」
村田の言葉に付け足すようにいう相沢が目を見開く。
「お前、しつこいだろさすがに・・・・」
「押しには弱いこれは実証済みだからな。」
「また、朔に睨まれんぞ?」
勝手に話が進む2人をよそに困惑する他。
「んでも、最近のは違うかもな。ひーちゃん、
人喜ばすのどうも好きみたいだからな。
案外、可愛いとこあんでしょ?」
「案外じゃねえよ。」
相沢の言葉に千治が視線を外した。
「まぁ、可愛いところありますよね。」
馨が千治の横顔を見てクスリと笑った。
「ただ単純に思ったんだろうな。」
相沢がボソッと呟いた。
「ひーちゃんは一度気を許すととことん信じるからな。」
そういう子なんだと言葉を続ける村田。
ただ、美味しいって言ってくれるだけで
何度も作ってくれるような子だよ。
そういうとこ純粋で真っ白過ぎる。
「知ってる。」
口角を上げて漆黒の瞳を向ける千治は不敵に笑う。
「そうか、そうか。だったら、あんま、無茶させんなよ。
そんでもって、甘やかしてやれ。」
生徒名簿を下駄箱に向けてバシバシ叩く担任
らしからぬ茶髪の悪魔は口元を緩めた。
「言われなくともそうしてやるよ。
そん時が来たらな。」
もう下駄箱に留まるつもりはないのか、
千治の気分転換の早さからなのか、
廊下をトボトボ歩き始めた。
「言いやがったな、アイツ・・・」
「まぁ、千治ほど甘い男居ないけどな。」
遠ざかっていく後ろ姿に大人の2人は
どことなく安堵するのだった。
多分、アイツ等は絶対に何を知っても
どんなことがあっても端っから強気な
彼女を気長に待つ気なんだろうから。

