そうです、あの日、私が姉に子守りを頼まれました。
亡くなった真麻(まあさ)は、もう7歳でしたから手はかかりませんでした。だからあの日、私は2歳の甥、香亜人(かあと)のほうに注意を向けていました。
はい、私と香亜人は1階にいました。
2階にはテレビを観ている父と、マンガを読む真麻がいました。
ええ、うちは2階にリビングやキッチンがあります。
父と真麻は近くにいました。でも互いに話すことはなかったのです。だからあんな事件になったのです。
もう姉のとこへは行かれたのですね。
姉は悪気はないけど奔放な人でした。美人で朗らかで人に好かれるので、アナウンサーという夢も、地元テレビ局ぐらいなら叶うように思えました。弟が医者になるというより、現実的に思えたぐらいです。
姉は母が病気になってから慌てて安定した職を得ようとしていましたが、母を蝕むガンの進行のほうが早くて、間に合わなかったんです。
結局姉は、母が亡くなる寸前に出来ちゃった婚をして家を去りました。
タイミングの悪さに呆れましたが、私は父のように怒りを抱くことはありませんでした。
それは、母の命は、どのみち救えませんでしたから。たとえうちが億万長者でも、いたずらに母の苦しみを延ばしただけでしょう。
私は一番近くにいたから分かります。
だから父とは違う気持ちで姉の幸せを祝福していました、姪や甥を愛していました。
だから今回の事件はとても辛いのです。
でも、私は父を一番に考えてあげなければならない立場です。父の無実の証明のためなら、何でもします。
姉と戦うことになっても仕方ありません。


