八十も越えた年寄りに、こんな哀しみがくるとはね、思いもしなんだです。
息子は、理想が高くてね、正義感と責任感と口の強か男です。
子どもたちにあんまり押し付けるもんだから、かねがね心配しとりましたけんどね、奥さん亡くしてからは意固地に拍車ば掛かってからに私の言葉にも耳は貸しませんでしたからね。
親はね、子どもの幸せや成功を信じてできるだけのことをしますね。
愛して、育てて、躾けて、歩んでいく方向を示すんです。それは心だけではない、金もかかれば手もかかりますでしょ。
そうですけど、子どもに抱いとった親の願望は、子の成長とともに一つずつ手放していかなければなりませんわね。
その願望が、自分を支えとったのにですよ。
愛情と期待が大きかっただけ、たーくさんのもんを諦めなきゃならんですよ。
あなたのような若い人には分からんでしょう。息子は還暦を過ぎても理解できなかったんですからね。
息子はただ、諦めることができなかったんです。
自分の正義と願望を子どもに押し付けてですよ、それが叶わなかったからって子どもも孫も無視しとったんですから。
でもね、そんな親、めずらしくも無い、どこにでもいるでしょう。
でもね、ただそんだけのことが、小さいもんの命を喪わして、二人の罪人を作りましたですね。
あなたがこんな田舎まで年寄りを訪ねて、事件をどうお書きになるつもりだか知りませんですけど、息子たち家族や孫の一家にこれ以上の哀しみを招かないで欲しいと思っとります。
(了)


