こんな言い方は酷いかもしれませんが、この事件が起きて、父の関心が僕の進路から逸れてくれて、ほっとしている部分があるんです。

父は、僕に医者になれ、と言います。
でも僕は、電気工学の分野か、バイオテクノロジーを研究できる大学で技術を身につけて、やがては発展途上国に行きたいんです。
ええ、そうです、青年海外協力隊員や、NGOもいい、そう思っています。

父は、世界に行ったっていいがまず医者になることなんだ、と言います。医者になれば、あとは何にでもなれるんだ、医者になれない奴は、何にもなれない、と。

でも僕は医者になれる気がしないんです。

だから……、僕は、何にもなれないのかも知れませんね。


ああ、あっという間に着きましたね。ここがウチです。どうぞ、中で父と下の姉が待っています。

いえ、僕は、予備校に行くので、ここで失礼します。

弁護士さん、どうか父を、宜しくお願いします。