それぐらいしか言えない。だけど、トヨはホッと小さな息を吐くと吹っ切れたとでもいうように晴れやかな笑顔を見せた。

「ごめんなさい、変なこと聞いて。それでは、みなさん目を瞑ってください」

この時代のことに口出すことはできないけど、願わくばトヨの想いが届きますように。

私は静かに瞼を閉じた。

トヨの一本芯が通っているようなよく通る涼やかの声が小さな部屋の空間を満たすようにとめどなく流れ出した。

その声に身を委ねるようにしていると、またあの不思議な感覚が襲ってきた。ふんわりと身体が浮く感覚。

次の瞬間には、強い光に包まれる。

程なくしてストンとどこか硬い場所に足がつく感触がした。

光が徐々に引いていくにつれて復活してきた視界に広がるのは山の麓の駐車場。

すぐ横には、乗ってきた黒塗りの高級車が止まっている。