まったく話を聞いてくれない。仕方がないので、雅仁さんにされるがまま身を任せていると、慣れた手つきでどんどんと着替えさせられていった。

「よし! 完璧だ」

少し離れたところに立ち、満足そうに俺を眺めながら雅仁さんは大きく頷いている。

「はぁー。――ありがとうございました」

「いやー、わはははは。気にするな。それより、飛龍君はやっぱり和装が似合うなー。男前度さらにアップって感じだな」

なんだそれと思わず突っ込みそうになったが、そこは世話になっている手前ぐっと堪えた。

「よし、じゃあ紗綾ちゃんの様子でも見てくるかな」

本当に神職なのかって言うくらい軽快な動きで部屋から出て行く雅仁さんの背中を見つめながら、再び大きなため息をついた。

別に雅仁さんの後を追うつもりはなかったが、何となく廊下に出てみた。

空を見上げれば、さきほどまで綺麗に晴れ渡っていた空に黒い雲が混じり始めている。

「……雨が降るかもな」

誰ともなしにそうポツリと呟いた言葉に、横から同意の声が聞こえた。