わらって、すきっていって。


なんて。仕事に集中するふりをしてみても、本当は全然ダメで。

必死に台詞合わせをしている、シンデレラちゃんことミキちゃんと、隣の本城くんを、たぶんもうきょうだけで100回は盗み見ては、ちょっと落ちこんでいる。


衣装のなかでいちばん最初に出来上がったのはシンデレラのドレスだった。純白のそれは本当にきれいで、試着したミキちゃんは、まるで本物のお姫様みたいで。

勝てっこない。

なにと闘っているのかも分からないけれど、ここ数週間、わたしはわけの分からない敗北感に折れてしまいそうだ。


「あ。でもさ、安西ちゃんって本城くんと仲良くない?」

「えっ!?」


このタイミングで突然話題を振るのはやめてほしい。もう少しで馬車の窓まで白で塗りつぶすところだった。あぶないあぶない。


「荻野さんと野間くんと守田くんとさ。みんなで仲良いよね。あとアレ、6組のキリシマくん?」

「え……ああ、うん。そうかなあ?」


アレ、とか言われたことを知ったら、ちーくんはきっと怒るんだろうな。

ちょっと笑ってしまうと、絵筆を持った彼女がずいっと身を乗りだしてきた。好奇に満ちあふれた目をしながら。


「ね、安西ちゃんはさ、ぶっちゃけ誰かのこと好きだったりしないの?」

「――げふっ」

「あー、そうなんだー! えー、だれだれ?」

「い、い、いないよっ! 好きなひとなんていないよ!?」


ダメだ。やっぱりもう少し上手に嘘をつけるようにならなければ。

声が裏返りすぎて、いつもどうやって声を出していたのかさえよく分からなくなってしまったじゃないか。