わらって、すきっていって。


本城くんの顔や、腕、仕草。こんなにちゃんと見るのって、はじめてかもしれない。

走っている彼しか知らなかったから。時々すれ違ったりはしても、こんなふうに近くで見たことはなかった。

ていうか、横目でチラチラ見ているのって、すごく気持ち悪いんじゃないかな。わたし気持ち悪いかな。


「ほ……本当にね、こわいなんて思ったことないよ。走ってるとこ、何回か見かけてたから。陸上部……だよね」


本当はわざわざ遠回りしたりして見に行っていたんだけど、それは絶対に言わない。言えない。


「そうそう、長距離やってんだ、俺。つーか見られてたんだ。恥ずかしいな」

「わ、わたし! 持久走とか苦手だし、長距離す、すごいなあって思う!!」


ああ、なんてカミカミなんだろう!


「あー。持久走、女子は嫌がるよな。走るのってほんとはすげー気持ちいいんだよ。同じくらい苦しいけど」

「そ、そうなんだ、ね……」


本城くんは陸上のことを本当に楽しそうに話してくれた。きっととっても陸上が好きなんだ。あんなに遅くまで残って走っているんだもん。好きに決まっている。

そしてわたしはやっぱり、そんな本城くんを好きだって……思う。


夢だと言われたほうが納得できる。まさか彼とこんな話ができる日がくるなんて、ほんの数時間前までは想像すらしていなかったんだから。