はじめての委員会の日、帰り支度をゆっくりしていたのはわざとだった。なんとなく、張り切っていると思われたくなかった。


本城くんと一緒の委員会。浮かれていないわけがない。

でも、そんな気持ちを悟られないように、普通の顔を保つのに精いっぱいだ。

本城くん、先に行ったかな。一緒に行くのはさすがに緊張するから、ここは別々に行きたいところだ。



「――安西さん」


それなのに、本城くんはわたしの気持ちなんかお構いなしだった。いや、お構いされても困るんだけど。

彼はとっても普通に話しかけてきた。というか、ナチュラルすぎて信じられないけど、はじめて話しかけられた。

どうしよう。顔、見れない。


「あ、あ、あの、わたしまだ支度できてないし……先に行っていただいて……」

「いいよ、待ってる。せっかくだし一緒に行こう」


なにがせっかくなんだろう。

まったく顔を上げないわたしはたぶん、印象最悪だ。いや、目を見て話したいのはやまやまなんだけど、こんなに至近距離で目が合ったら、きっとわたし、3秒ももたずに死んでしまう。

視界の右端にある彼の上靴はわたしよりもうんと大きくて、教科書を持つ手がどうしても震えた。


「ま、待っててくれてありがと、う……」

「ん、準備できた? じゃあ行こっか」


うわ、わたしいま、あの本城くんとしゃべっているんだ。夢みたい。

一歩前を歩く彼の襟足を盗み見て、胸の奥がきゅんとした。近くで見ると、思っていたよりも背が高い。