まさか涙が出るなんて予想外だった。しょっぱいそれは、お風呂のお湯に溶けて消えた。
たまらずえっちゃんに電話をかけたのも予想外。それでも、このままひとりで眠れる気なんてしなかったんだ、ごめん、えっちゃん。
「――ライブどうだったあ?」
電話が繋がるなり、受話器の向こう側から聴こえたのは能天気な声。それにすら安心してしまうんだから、自分で思っているよりも相当ダメージを受けているのかもしれない。
「ライブは楽しかったよ、すごく」
「……あれ? どした? 泣いてた?」
えっちゃんが男の子だったらよかったのに。そしたら、わたしは絶対にこのひとに恋をしていた。
彼女の優しすぎる声にまた視界がゆがむ。
「うう、えっちゃん……」
「あんこ? どしたの、本城となんかあった?」
「うう……」
「よしよし、泣かないで」
どうしよう。また涙が止まらなくなってしまったじゃないか。どうしてこう、えっちゃんはいちいち男前なのかな。
いつもはいじわるなくせに。面白がって笑うくせに。
いざというときはこんなふうに優しいんだから困るよ。女心をよく分かっていらっしゃる。いや、彼女も女の子なんだけれど。
「あんたまさか、告白……」
「……する前に、振られた、かも」
「はあ!? なんでよ!? やっぱりあいつ彼女いたんか!?」
「ち、違う! だから怒んないで!」
びっくりした。えっちゃんは一度怒ると鎮火に時間がかかるから大変だ。もっとも、なんとなくもうすでに怒っているような気はするのだけれど。



