「ええと……彼氏は、いません。好きなひとは、います。……います」
目はあけていられなかった。でも、ちゃんと言えた。
このまま『あなたのことが好きです』くらい言えたらいいんだけど、さすがにそんなのはちょっとハードルが高すぎる。
「……はい、分かりました」
「ほっ、本城くんは……」
「俺も同じ。前にも言ったけど、彼女はいないっす。……好きな子は、たぶんいる。たぶん」
「た、たぶん……」
それはちょっとずるいんじゃないかなあ。もやもやばかりが広がってしまうじゃないか。
「でも、きっとすげー好きになる、気がしてる」
八重歯を見せて笑うその表情を見て、もやもやがちくちくに変わった。そんなふうに照れ笑いする顔なんて見たくなかった。
こうして恋の話をできるくらい仲良くなれたのはうれしいけど、違うの。違うんだよ、本城くん。
だってわたしは、本城くんのことが好きなのに。
「えっと……いつか教えてね、好きなひとのこと」
「うん。……安西さんも」
なんだかすごく泣きそうだ。本城くんにこんな顔をさせる女の子がいると思うだけで、どうしようもなく苦しい。
応援するねって言いたいのに、うまく言葉にならない。のどが震えてくれない。おかしいな。
「あ……うちもうすぐそこだし、ここで大丈夫。ありがとう」
「え、家の前まで送るよ」
「ううん、大丈夫! きょうはほんとにありがとね、おやすみなさいっ」
彼の返事を聴かないうちに踵を返して、そのまま地面を蹴った。これじゃまるで逃げたみたいだ。感じ悪いなあ、わたし。
それでも、本城くんの前で泣いてしまうよりはきっとまし。
いつの間にわたし、こんなにも彼を好きになっていたのかな。嫌だな。苦しいよ。



