幸せ死というものがこの世にあったら、たぶんわたしはすでに何度も死んでいるはず。
「ありがとう……」
「や、俺が安西さんと話してーんだし」
「えっ」
ほら。彼の手にかかれば、わたしはこんなに簡単に死んでしまえる。
「……安西さんと霧島って、たしか幼なじみだっけ?」
「あ、うん、そうだよ。もう家族みたいなものなんだ、ちーくんって」
「そっか」
まさかちーくんの話をされるとは思わなかった。そういえばこないだ、ちーくんも本城くんの話をしていたなあ。ふたりはどれくらい仲良しなんだろう。
「……あのさ」
本城くんの低い声が夜道に落ちた。彼が震わせた空気が心臓にまで伝わって、どきどきした。
「安西さんって……」
「はいっ」
「……いや、なんでもねーや、ごめん」
既視感。京都のときと同じだ。
あのときも本城くんはなにかを言いかけて、同じように『なんでもない』と言ったんだ。
彼はいったいなにを言いかけていたんだろう。ずっと気になっていた。そしていま、彼はなにを言いたかったのかな。
「……前と、同じこと?」
「え?」
「京都のときもなにか言いかけてたでしょう? ネコのストラップくれたとき。……あのときと同じこと?」
気付けば両足は歩みを止めていた。本城くんはすでにわたしのほうを向いていて、ふいに小さく息を吐いた。



