さすがにそんなことは言えないけれど。言ってしまったらきっとストーカーだと思われる。いや、本城くんは絶対にそんなふうに思わないけれど。そんなの重々承知だけれど。
ああ、わたしにもう少しの勇気と大胆さがあったらなあ。
世の中の女の子たちはいったいどうやって好きなひとと普通に接しているんだろう?
頭がぐるぐるする。緊張と暑さで倒れてしまいそうだ。
だって、わたしの隣に、本城くんがいるんだよ。
「そういえば安西さん、さっきなに聴いてたの?」
「えっ」
「イヤホンしてたろ? 安西さんはどんな音楽聴くのかと思って」
「あ……えっと」
本城くんがわたしに優しく笑いかけてくれている。わたしにとっては、あの太陽よりもずっと、この微笑みのほうが身体を溶かすには効き目がありそうだ。
「……ええと、その」
「ん?」
「あ、あまいたまごやき……」
「えっ!」
彼の目が驚いたように開いた。わたしを見つめる黒い瞳から逃げるように、思わずうつむいてしまった。
さすがに気持ち悪いと思われてしまったかな。だって、きのうあの話があったあとだから、これこそまるでストーカーじゃない?
「安西さんもたまごやき好き!?」
「えっ……」
「なんだ、だったらきのうそう言ってくれたらよかったのに!」
そう言うと同時に、開かれていたその目はたちまち細くなって。目尻にはかわいい皺が刻まれる。



