こんなふうに、目の前でこんなことをされてしまうと、どんな顔をすればいいのか分からなくなるよ。
だって、本城くんのスマホに、わたしの名前が……あるんだよ。
「……う、うわあ!!」
「えっ?」
ついに爆発してしまった。そりゃそうだ。だって、委員会のときから換算するともう3時間、こうして話しているんだから。
ただ遠くから見ていただけの、名前も知らなかったひと。そんな彼が、いま、目の前で笑っているんだよ。そりゃ爆発もしますよ。
「あの……あの、きょうお母さんに早く帰って来いって言われてて! だから……か、帰りますっ」
がたっと立ち上がったわたしに、本城くんは目をまんまるにして驚いていた。
いや、実際はどんな顔をしていたのか分からない。だってもう、顔なんて見れるわけがない。
「おー。あんこ帰んの?」
「はい!」
「ははっ、ハイってなんだよ。じゃあオレも帰ろーっと」
ちーくんが立ち上がる。そして彼はそのまま、当然のようにわたしの隣に並んだ。
「じゃあなー」
「おーじゃあな」
「バイバーイ。あんこもまたあしたね!」
3人が挨拶しあっているのを見て、ふと気づいた。
えっちゃんと本城くんは帰らないのかな。ふたりきり……だな。勢いで帰るって言っちゃったけど、ちょっと後悔だ。
「安西さん」
「は、はいっ」
「またあした」
また、あした。あしたも会えるんだ。あしたも、もしかしたら、本城くんとこんなふうに話せるかもしれないんだ。
「……うん。また、あした」
ぼやけていた世界の焦点がやっと合った。白い八重歯をのぞかせて笑う本城くんに、小さく手を振った。心臓がくすぐったい。



