「俺も、安西さんの全部をひとりじめしたいって思ってる。笑った顔も、泣いた顔も、そのまつ毛の一本でさえ、……まばたきのひとつでさえ」


ずっと、彼の世界に住みたいと思っていた。ねえ、いまわたしは、その優しいまなざしのなかに住めているのかな。

おかしいね。ずっと昔、わたしが彼の視界に入ることすら、奇跡だと思っていたのに。


「俺さ、いろいろあって……ずっと、どうしたらいいのか分からないまま、闇雲に走り続けてた。世界は最初から憂鬱で、だから毎日がこんなにも暗い色なのは、きっとしょうがないんだろうって」


『いろいろ』って、たぶん、美夜ちゃんのことだと思う。

美夜ちゃんも苦しかったはずだ。ある日突然歩けなくなるって、夢をあきらめなくちゃいけないって、わたしには想像もできないほど、悲しくてこわいことだもの。

でも、そんな彼女の痛みを全部背負おうとしていた本城くんも、きっと同じくらい苦しんで、もがいていたんだ。とても優しいひとだから、たぶん、その分だけ。


「そんな憂鬱な俺の世界に、突然安西さんが現れた。

……きみが、俺を、俺の世界を、がらりと変えてしまったんだ」


まじまじと彼の顔を見つめる。すると、本城くんは眉を下げて、困ったように笑った。

白い八重歯が見えた。ああ、そうだ。彼が笑ったときに見えるこれが、わたし、たまらなく好きなんだ。


「……俺も、安西さんが、好きです」

「あ……」

「だから、これからずっと俺の傍にいてほしいと思ってるんだけど……どうかな」


本城くんらしい言葉だな。胸のあたりがなんだかくすぐったい。


今度はなにひとつ見当たらなかった。それを断る理由も、保留にする理由も。

自分に自信は……まだ少し、ないかもしれないけれど。


でももう、じゅうぶんだ。受験もがんばったし。うん、そうだよ。

だって、好きなひとが、自分を好きでいてくれる。

そんな最高にミラクルなことを、わたしは手に入れているんだから。


「はいっ。ふつつかものですがよろしくお願いしますっ」

「……ぶっ」

「え!? なんでここで笑うの!?」

「いや、ごめん。なんか安西さんらしい台詞だなと思って」


あれ。せっかく感動的な場面なのに、間違ったかなあ。