ひとしきり笑った彼が大きく息を吐く。彼の口元から離れていく手を見て、その指がとてもきれいだということに、いま気付いた。
「はー、なんだこれ。お見合いかよ」
お見合いだったらどんなにいいか! だってそれって、つまりは本城くんと結婚できるってことだ。
そこまで考えて、また顔が熱くなった。
結婚って……なにを考えているんだろう、わたし。本城くんに知られたらそれこそドン引きされる。ただちょっとお話できたからって、浮かれすぎだ。
「あー恥ずかしかった」
「わ、わたしも恥ずかしいです……!」
「な。すげー熱い」
眉を下げて笑った彼が、ポケットから黒いスマホを取り出す。そして、流れるようにLINEの画面を開いたから、わたしもあわてて同じようにした。
スマホを一緒に振った。それだけでも心臓は大暴れなのに、すぐに画面のなかに本城くんが現れたんだから、手の震えを抑えるのにもう必死。
『本城夏生』
フルネームで登録しているんだ。アイコンは白いネコちゃんの写真になっていた。かわいい。飼っている子かな。
「あ。名前、『あんこ』だ」
「う、うん、そうなの! あんこってあだ名、好きで」
「へー。たしかに美味いもんな、あんこ」
いまの「あんこ」は食べ物のほうだってちゃんと分かっている。分かってはいるけれど、やっぱりうれしくてしょうがない。
本城くんの声で呼ばれるたびに、「あんこ」という響きを、もっともっと好きになっていく。
ああ、食べ物のほうのあんこに生まれてきていたら、本城くんに美味しく食べてもらえていたかもしれないのになあ。……なんて。



