わらって、すきっていって。


ふわふわする。本城くんはすぐ目の前、たった50センチ向こうにいるはずなのに、その顔がよく見えない。

こんなチャンスめったにないのに。いま見ておかなきゃ、二度とこんなふうに話せないかもしれないのに。


「……あ、そうだ」

「はいっ」

「安西さん、よかったら連絡先教えてよ」

「え?」


れんらく? いま、連絡先って……言った?


聞き間違いではないかとおろおろするわたしになんかお構いなしで、彼は涼しげな顔で最後のひとくちを頬張った。

ついに間接キスをしてしまった。でも本城くんは気にしていないみたいだ。

わたしの目の前には、さっきから減っていないドーナツがさみしそうに横たわっているというのに。


「……あ!? 違うから!」

「え!?」

「なんつーの、全然そういう……やましい感じじゃねーから、うん」

「えっ、えっ!?」


さっきから「え」しか言えていない。情けないけど、なぜか本城くんが顔を赤らめているから、わたしもつられて顔が熱くなる。


「いや……安西さんに変な誤解されたらやだなって。下心みたいなのはない……っすよ」

「は、はい! むしろこちらのほうこそ恐縮でございますといいますか! なんといいますか!」

「……ぶっ。くっくっく……」


ついにおもいきり笑われてしまった。

でも、右手で口元を隠すその姿がかっこよくて、わたしだけ相変わらず、顔が熱いままだ。