自分で言っておいて、もう顔が熱くてたまらない。きっと本城くんも引いている。もう、やだな。本当にうまくいかないや。
「……や! あの! いまのはなんていうかその!」
「じゃあもらおうかな」
「へっ!?」
「ひとくち。やっぱそれ食いたかったなーって、いま思った」
白い八重歯が見える。そのまぶしい笑顔にとろけていたいけれど、彼の目の前でそんな顔をするわけにもいかず、きゅっと頬を持ち上げた。たぶんわたしいま、最高に変な顔をしている。
それでも震える手を差し出すと、彼がそれを受け取るときに、指先がほんのちょっとだけ触れた。それだけでもう全身が心臓になったみたいにばくばくするんだ。困った。
心臓がまだうるさいうちに、遠慮がちなひとくちを終えて、彼はまた笑った。美味いって。
やっぱり本城くんって、とっても素敵なひとだな。素敵すぎて、正直もう、そのドーナツは食べられません。
「も、もういいの?」
「うん。安西さんの分なくなっちゃうじゃん。ありがと」
「ど、ど、どういたしまして!」
「あ、俺のも食う? チョコ好き?」
「好きです!」
好きです。……チョコじゃなくて、あなたのことが。
本城くんの歯形が付いたチョコレートのドーナツ。食べるとき、どうしても目はあけていられなかった。
そして、どれだけ噛んでも、なんだか味が分からなかった。



