でももう、なにを後悔しても遅すぎるかあ。
「だからさ、なにが言いたいかっていうと。なっちゃんが悪いことなんてひとつもないんだから、ちゃんと小町ちゃんに恋して、ちゃんと幸せを掴んでねってこと!」
「……うん」
「がんばってよねー!」
ありがとう、と。なっちゃんは泣きそうな顔でそう言った。
その顔をぼんやり見ていると、彼はやがて本当にひとすじ涙をこぼしたから、正直驚いた。見間違いかと思った。だって、なっちゃんの涙を見るなんて、白い病院で目覚めたあの日以来だ。
「……美夜、あのな。美夜にはほんとに幸せになってほしいって思う。美夜のことを心から好きで、大切にしてくれるやつと、誰よりも幸せになってほしいんだ、俺」
「な、なに、なっちゃん、なんで泣いて……」
「バカ。美夜だって泣いてるぞ」
彼がちょっと笑いながらそう言ったのとほぼ同時。頬にあたたかいものがつうと伝う感触がして、視界がぐにゃりとゆがんだ。なんだこれ。順番がめちゃくちゃだ。
おでこをくっつけあって泣いた。そのあとで、なっちゃんが優しく私を抱きしめたから、私もその腕をぎゅっと掴んだ。
「なっちゃん、ごめん……ごめんね、なっちゃん、ありがとう……っ」
ねえ、いまこの瞬間だけは。この腕だけは。その涙だけは。
全部、私のものにさせて。
「……ねえ、なっちゃん」
「ん?」
「もし美夜が歩けてたら、なっちゃんは、美夜のこと好きになってくれてた……?」
声が震えてしまった。ずっとこわくて訊けなかったことを言葉にするのって、こんなに勇気がいることなんだと思った。



