「ごめん、美夜。……なあ、俺のこと、一生許さなくていいから」
欲しかったのはそんな言葉じゃない。
本当はただ、私のことが好きだと。女の子として美夜を好きなんだと、いつもの優しい笑顔で、そう言ってほしかっただけなんだよ。
ただ、笑って、好きって言ってほしかった。なっちゃんに、私を好きになってほしかった。
それだけは、私の両脚が動いていたころからずっと、変わらないよ。
「……もう、決めたの?」
「うん。決めた」
ごめん、って。もう一度謝られたら、絶対に解放してあげないでおこう。
それなのに彼は、迷いのないまっすぐな目で私を見て、首を一度縦に振っただけだった。
謝ってよ。さっきまでバカみたいにゴメンを繰り返していたくせに、ひどいよ。私の心をすっかり見透かされているみたいで、なんか、嫌だなあ。
「……なっちゃんさ、覚えてる? あの日、結婚するって約束してくれたあと、なっちゃんね、もうひとつ約束してくれたことがあるんだよ」
「……うん。ちゃんと覚えてる」
「そっかー」
走って。なっちゃんはいつでも、誰よりも速く、走り続けていて。脚が動かなくなった美夜に、なっちゃんの両脚で、地面を踏みしめられる喜びをちょうだい。
私、そう言った。
なっちゃんはうなずいてくれた。美夜のために走るよって、まだ渇ききっていない幼い涙声で、そう言ってくれたんだ。



