ただ、そのちーくんは、ばつが悪そうに口をもごもごさせていた。
「ほーん? なにが『ダメ』なんですかねえ」
「べ、べつに! 間違えたんだよ!!」
「間違えたって?」
「うるせえ荻野! 黙れ!」
やっぱりえっちゃんとちーくんは仲良しだ。だからふたりといるのは楽しいんだけど、よくこんなふうに言い合いになるから、なんだかわたしだけが置いてけぼりになってしまって、ちょっとさみしい。
黙ってむぐむぐドーナツを食べていると、ふいに目の前の本城くんと目が合った。同時に肩が跳ねた。
「それ美味いよな」
「えっ」
「俺もそれにしようか迷ったんだ」
なかにカスタードクリームが入った、甘ったるいドーナツ。特に好きというわけではないんだけど、きょうは甘いものの気分だったから、たまたまこれを買った。
本城くんは甘いものが好きなのかな。買ってよかった。わたしもたったいま、このドーナツがいちばん好きになりました。
「……た、べる?」
「え?」
「ひとくち……食べる?」
本城くんがびっくりしたように目をまあるくするから、わたしもはっと我に返る。
なにを言っちゃっているんだろう!
ひとくち食べるかなんて、そんなの「間接キスしましょう」って言っているようなものなのに!



