「そういえばさー、本城とこうやって話すのってはじめてだよね」
「だな。席も全然近くないし」
ずいっと身を乗り出して、対角線上にいる本城くんに話しかけるえっちゃん。
彼の少し首をかしげて話す仕草が素敵で、やっぱりどうしても、一瞬見ただけで目を逸らしてしまう。
「ていうか、あたしの名前知ってる?」
「知ってるよ。荻野さんだろ、荻野英梨子(おぎの・えりこ)。校則違反なのにピアスしてるから印象に残ってる」
「あはは、そこ? ピアスかわいいでしょー」
そっか。えっちゃんは本城くんの印象に残ってるんだ。
わたしもピアスあけようかな……なんて。さすがに嘘だけど。
ピアスを見せながらきれいに微笑む彼女の横顔をちらっと見て、なんだかもやもやした。やだな。えっちゃんにまでやきもち妬いちゃうんだ、わたし。
「ところで本城って彼女いるの?」
「――ぶっ」
思わず飲んでいたオレンジジュースで噎せてしまった。わたしが。本城くんの目の前なのに恥ずかしい。ちーくんは「なにやってんだよ」って笑うし。
だって……えっちゃんが、変なことを訊いたりするから。
「いないよ」
でも当の本城くんは、ひとつの動揺も見せるどころか、さらりとそう言い放った。
「へー。好きな子は?」
「うーん。いまは陸上ばっかりでそんな余裕ねーかな」
「へえ!」
最後の「へえ」と一緒にえっちゃんがわたしの背中をバシッと叩く。それと同時にまた噎せるんだから、もうやんなっちゃう。



