「なあ、誰にだよ。いつの間にそんなことになってんの、なあ」
「うるせえなあ。あんこだってもう18になるんだし、そりゃ恋くらいするだろ」
「同じ学校のやつ?」
「そう。夏前にさあ、チケットくれたろ、あまいたまごやきの。あれ譲ったやつだよ。結局そいつとあんこがふたりで行ったんだ」
自分で言っておきながら、なんか無性に悲しくなってくる。
後悔はしている。本城にチケットを譲ったこと。だってまさか、あんこもあまいたまごやきを好きだなんて思ってなかったんだよ。
なんだよ。だったらオレが一緒に行きたかったよ。ちくしょう。
「そうか……。どんなやつなの、小町の好きなやつってのは」
「言いたくもねえ」
「うわあ、キレてる、ちーちゃんキレてる」
「キレてねえよ」
キレそうだけど。おまえに。
「でもまあ、分かるよ。おれたちのかわいい小町を振るなんてやってくれるよなあ、そいつ」
兄貴が結構まじめなトーンで言うもんだから、今度こそ本気でコントローラーを叩き壊しそうになってしまった。
だって、あんこはガキのころ、兄貴のことが好きだったんだ。背も高いし、優しいし、顔のつくりもそれなりだし、あんこのもろ好みなんだ、こいつは。
そんなお兄さんが近所に住んでいたら、そりゃあ好きにもなると思う。
「……おまえだって、振っただろ、あんこのこと」
そういう言い方にはちょっと語弊があるかもしれないけれど。
こいつはあんこの気持ちを知っていて、そのうえで、相手にすらしなかったんだ。



