あんこは昔からよく笑う女の子だった。ふわりと、花みたいに笑ってみせるその顔を見たくて、オレはその昔、バカばっかりしていたんだ。
そういえば、あんこが泣いたことって、これまでに何回あったかな。
転んだとき。注射したとき。熱をだしたとき。
普通だったら泣くような、どの場面を思い返しても、彼女は笑っていたような気がする。へいきだよって、にっこり。逆にそういうときはオレのほうが大泣きしていたっけなあ。だせえや。
ただ、小学生のとき、学校で飼っていたうさぎが死んで。あのときあんこは、いままでにないくらいわんわん泣いていたんだ。
あんまり自分のことでは泣かないやつだから、心配っつーか、なんつーか。
場合によっては本城のところに殴りこみに行くことになりそうだ、オレ。
「……落ち着いた? あんこ」
「ん……、ごめん、えっちゃん。ありがと……」
荻野に背中をさすられているあんこが、オレのほうを振り向いた。
そして、見事に棒立ちで情けなかっただけのオレにも、あんこは「ありがとう」と言ってくれた。
「さっきね、本城と会ったんだけど」
「うん」
「なにかあった? あいつちょっと様子おかしかったし、あんこも泣いてるから、ただごとじゃないでしょう?」
「……あのね、えっちゃん、ちーくんも」
あんこが息を吐いた。深呼吸をしているみたいな、長い長いため息だ。
「わたし、振られたよ、本城くんに」
どういうリアクションをとるのが正解なのか、さっぱり分かんねえよ。
振られたって。……振られたって、なんだ?
あんこが? 本城に?
嘘だろ。だってふたりは、両想いだろう? 好きあってんじゃなかったのかよ。



