荻野はなにも言わずに3年3組に向かった。ついていくしかできない自分がちょっと情けなかったけれど、明かりの点いている教室を見て、やっぱり荻野はすげえなって変に感心してしまった。
なんつーか、その迷いのなさに。
こいつ、男だったらすげーモテてただろうなあ。
「あんこ、入るよ」
荻野はやっぱり容赦ない。おもいきりドアを開け放ったかと思えば、真ん中の黒いかたまりにつかつかと歩み寄って、下からそれを覗きこんだ。
黒いかたまりはあんこだった。教室のど真ん中で、彼女は座りこんで、震えていた。
「あんこ……?」
もしかして、泣いてんの。
なにがあったんだよ。なんで泣いてんの。まさか、本城に泣かされてんの、なあ。
「えっちゃん……えっちゃん、どうしよう……っ」
あんこは荻野をそこに確認した瞬間、すがるようにその腕を掴んだ。彼女の指先は震えていた。たぶん、それくらい強い力で荻野の腕を掴んでいるんだ。
「あんこ、落ち着いて。大丈夫だからね。もうあたしがいるから。あ、ついでに霧島も」
ついでってなんだよ、おい。……まあ、たしかにオレいま、なんにもできてねえけど。
だって、オレもこわいよ。こんなに泣いてるあんこ見るの、はじめてだし。
「深呼吸しよう。大丈夫だから、ほら。吸って、吐いて、ゆっくり」
「……う、はあ……、ひっく……」
ここまで、呼吸を乱して大泣きするほどのことがあったのかと思うと、なんか嫌だ。あんこは本城にこんなにも気持ちを揺さぶられるのかって。



