「じゃああたし、準備あるから。そろそろ行くわ」
彼女はいつもより1トーン低い声でそう言うと、持っていたプリッツの箱をわたしの胸に押し付ける。まだ一袋残っているけど、もう食べないのかな。
「……あたしだって、さみしいんだよ、あんこ」
「え……」
「最近元気ないのなんて分かるんだから。……悲しいことがあるなら、心配くらいさせてよ。むかつくことがあるなら、一緒に怒らせてよ」
その横顔は、いままでに見たことのない表情だった。
えっちゃんは怒っているんじゃない。ちゃんと考えたらそんなことすぐに分かるはずなのに、わたしは自分のことばっかりだ。
情けない。かっこ悪いなあ。
「……ごめん、えっちゃん」
「いいんだけどさ、べつに」
すっかり忘れていた。わたしには、圧倒的で絶対的な、無敵の味方がいるんだってこと。
大好きなえっちゃんがいてくれているってこと。
「あのね! 文化祭終わったら、ちゃんと話すから。全部話すから。だから……聞いてくれる?」
えっちゃんのきれいな髪が揺れた。同時に、その耳元で、小さくて青い石が光った。
「もー。しょうがないなあ、あんこは」
困ったような、それでいて得意そうな。彼女はそんな表情を浮かべて、歯を見せて笑う。
バカだな、わたし。こんなにも素敵で無敵なヒーローの存在を忘れていたなんて。
わたしのヒーローのうしろ姿はいつだって本当にかっこよくて、見とれちゃう。



