わらって、すきっていって。



あんなことがあって、翌朝はどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。言葉にして思い出すのも恥ずかしい、本城くんとの、あんなこと。

それなのに、本城くんは普通で。本当に普通で。安西さんおはよう、といつもの笑顔で言われたときは、自分でもびっくりするくらいまぬけな声が出た。


もしかしてあれは夢だったんだろうか。

いや、そんなことはない。だってわたしのくちびるには、なんというか、あのときの感触がしっかりと残っているわけで。

想像よりもやわらかかった。ふに、とした。いつか漫画で読んだ効果音がそのまま当てはまる感じだった。

それでいて、あたたかくて、いいにおいがして。


最近、気付けばあのときのことを思い出している。そして、くちびるに指を押し当てては、何度も確かめる。

あれは夢じゃなかった、って。

うん。やっぱり現実だ。間違いない。だって、心臓がどきどきしているもの。


どうして本城くんはこんなにも普通なんだろう?

もしかして、彼にとってはなんでもないことなのかな。キスなんて彼には簡単にできることなのかも。

もしそうだったら……少し、悲しい。



「――みなさん、お疲れさまでしたー!!」


ふと、教室に大きな声が響いた。守田くんの声だ。