このまま溶けることができたなら。そしたら、わたしは本城くんの一部になって、ずっと一緒にいられるのかな。
好きだって言わなくても、好きになってもらえなくても、一緒にいられるかな。
オレンジの教室で、なにも言わないままいったい何分たっただろう。あるいは数秒かもしれない。
でもその時間は、まぎれもなく、わたしに永遠を感じさせた。それくらい幸せで、夢のような時間だった。
ふと、彼の腕が緩む。
ああ、もう終わりか。夢は終わり。わたしは『シンデレラに嫉妬する娘A』に戻らなければならない。
でも。うつむいているわたしの頬を、ふいに、なにかあたたかいものが包んで。
やっぱり大きな手のひらだなあ、なんて呑気なことを思う時間すらなかった。彼の両手はわたしを逃がしてはくれない。
そして気付けば、くちびるに、あたたかいものが触れていた。
それが終わったのは数秒後。名残惜しそうにゆっくり離れていったもうひとつのくちびるを、わたしも同じように名残惜しく感じていたと思う。
目を閉じることなんてすっかり忘れていたよ。だってあまりにも突然で、信じがたい出来事だったから。
キス、だ。これが。キスだ、たぶん。
わたしいま、本城くんに、キスされたんだ。
「……帰ろうか。着替えるの、待ってる」
「う、ん……」
どうして、とか。どういうこと、とか。訊けなかったし、訊かなかった。なんとなく、なにを訊いてもしっくりくる答えは返ってこないような気がしたから。
両の頬はとっくに解放されているのに、まだずっと熱を持ったまま、冷める気配もない。



