「……わたしも、会いたかった、です」
あれ。シンデレラの台詞って、これで合っていたっけ。
それにしても、せっかくなら制服に着替えたあとでやりたかったなあ。ジャージって。かっこつかないにもほどがある。
どこか冷静な気持ちだった。なんとなく、これは夢だとどこかで思っているのかも。
「……あはは!」
でも、本城くんの軽快な笑い声で、たちまち教室は現実の世界に変わって。
「ありがと、付き合ってくれて。忘れ物取りに戻ったんだけど、安西さんがいてくれたおかげで余分に練習できた」
「あ、忘れ物……」
「いいのかなあ、俺なんかが王子で。つか、普通にめちゃくちゃ恥ずかしんだけど、これ」
いつの間にか彼はわたしからずいぶんと離れた場所にいた。自分のロッカーから古典の教科書を取り出しながら少し苦笑いを浮かべる姿は、いつもの本城くんとなんら変わりない。
それを眺めながら、さっきの緊張とどきどきが一気にあふれだした。
びっくりした。びっくりした……!
まさか、あんな至近距離で見つめられるなんて。ぎゅっと手を握られるなんて。
本城くんが王子様になってくれるなんて。わたしがシンデレラになれるなんて。
神様。スカートを汚してくれてありがとうございました。おかげで貴重な体験ができました。一生の思い出にします。



