「あーあ。全然乾かないなあ」
太陽さん、もう少しがんばって、お願い。
そう祈ったところで、西の空でオレンジの輝きを放つ太陽は、まぶしいばかりでちっともあたたかくない。もう秋になるんだなあとこんなところで実感した。
教室が優しいオレンジ色に染まっている。
机も、床も、壁も、ロッカーも、全部。
きれいだなあと思った。スカートはいっこうに乾いてくれないけれど、この色をひとりじめできていることのほうが、よっぽど大切なことのような気がした。
「――『ごめんなさい。わたし、もう帰らないといけないの』」
こぼれ落ちたのは、シンデレラの台詞。幾度となく聞いたその台詞は、やっぱりわたしの声では違和感しかなくて、ちょっとおかしい。
やだな。気持ち悪い。ひとりでなにしてるんだろう。
生乾きでもいいからスカートを穿いて、もう帰ろうかな。
そう思って、顔を上げたとき。
オレンジの世界のなかで、同じオレンジ色に染まっている、好きなひとがいた。
「え、あ……ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」
さっきの、もしかして聞いた? って。わたしが訊ねるよりも先に答えを言ってくれてありがとう、本城くん。そしてもれなく消えてなくなりたい。



