あの日は、化けの皮を剥ぐ事しか頭になく、
松波の身体だなんて見ようとも思わなかった。
不可抗力でチラッとだけ胸を見たけど、
あんなのは見たうちに入らないだろ。
母親が言う『見た』とは、
肌に残る傷痕をこの目で確認したかという事。
………そんな傷があるだなんて知らなかった。
「その傷、………酷いのか?」
「ん~……そうね、決して軽い傷とは言えないわね」
「何して負った傷?」
「………テコンドーの国際試合で負った傷よ。肘と肩を骨折して、手術した痕よ」
「手術?!」
「……ん。海外だった事もあり、うちが紹介した病院で手術したの」
「……で、アイツの腕は大丈夫なのかよ」
「えぇ、幸いにもそれほど酷い状態では無かったから」
「はぁ……」
母親の言葉に心臓が煩く反応する。
もう何年も経っているのに、それでも俺は………。
「その件もあって、少し作戦を変更したのよ」
「へ?」
「武術の腕は既に一流だったから、もういいんじゃないかと思ってね。だから、それからの希和さんには、京夜の妻としての素養を磨いて貰ったのよ」
「………それって……」



