「覚えてますよ。だって、あの日は……私の8歳の誕生日ですから」

「はっ?………6月2日がか?」

「………はい」



俺にとって、6月2日は特別な日だった。

初めてあの子と会話して、

そして、別れの挨拶だが……彼女が俺にキスをした日。

俺が失恋した日でもあるが、

俺にとっては消したくても消せなかった想い出の日。


だから、松波が来た翌日に玄関のパスワードを

想いでの日……『0602』にしたのだから。



「私、あの日を最後に『女の子』を封印したんです」

「は?」

「それまでも武術の稽古はしてましたが、あの日の翌日から本格的に始めたんです」

「………何故?」

「父親からの命令で。稽古自体は嫌いじゃ無かったけど、正直、年相応の楽しみも味わいたかったです」

「………」



父親からの命令って?

1人娘にここまで武術をさせるって、余程の事だろ。


俺の脳内は物凄い速さで稼働し始めた。

それも、緊急停止していた脳が尋常でないくらいの速さで。



「なぁ、1つ聞くけど」

「………はい?」

「うちに来る事になったきっかけは何だ?」

「へ?」