「あの、京夜様」

「………ん?」

「えっと、その……」

「何だ、はっきり言えよ」

「あの………」


松波はギュッと唇を閉じ、考えを巡らせている。


そんな松波を横目に見据え、

俺はトムコリンズを口に含んだ。


俺の視線に耐えかねたのか、

松波は意を決した様子で口を開く。


「あの、昨日の事ですが……」

「………ん?」

「その………、空港で「待て!!」

「へっ?」


俺は片手を上げ、松波の言葉を遮った。


……空港?

それって、あの惨劇の話を蒸し返すつもりか?

やっとの思いで忘れかけてたのに、

何で今さら蒸し返そうとするんだ?


聞きたければ、昨日の夜だってあったし、

今朝だって、今日の日中だって、

帰宅した後だってあったのに……。


何が楽しくって、

閉めたばかりの生ごみの蓋を開けなきゃならない。

開けた途端に、中から気色悪い害虫が出てくんじゃねぇか。


俺は嫌悪感を露わにし、


「悪いが、その話は二度とするな」

「え?」

「人には触れてはいけない領域ってもんがあるだろ」

「あっ………はい。でも……」

「しつこい!」

「ッ?!」


俺は松波を鋭い視線で一瞥し、再びグラスに口を付けた。