「松波、本部長がお呼びだ!!」

「はいっ!?」


突然、主任に声を掛けられ直立不動になった。


私(松波希和:まつなみきわ)は防衛大学を卒業し、大手警備会社へ就職した。

防衛大を卒業したからといって、自衛官や警察官という職業には、興味は無い。


父親は政治家のSPをしていて、男の子が欲しかったらしい。

けれど、難産の挙句、やっと授かった我が子が女の子。

2人目に恵まれず、結局、父は私に格闘技を教え込んだ。

お陰で私は“女の子”とは無縁の世界で生きて来た。


空手、柔道、テコンドー、レスリング…

ありとあらゆる格闘技を熟し、小さい頃からいつも“男の子”に間違われ、現在に至ってもそれは変わらない。

完全に見た目が“男”そのモノ。

だって、女で身長175㎝って…。

女性のシンボルである胸は、大胸筋に申し訳ない程度の脂肪が付いているだけ。

稽古に支障を来たすからと、爪を伸ばした事もなく、髪も常に短くしている。



はぁ……。

私だって一度でいいから、“可愛い”とか“キレイ”だとか言われてみたい。

そんな事は、夢のまた夢だって解りきっているけど。


そんな私が唯一父親に逆らったのが、父親とは別の所に就職した事くらい。


父親は私をSPにしたかったみたいだけど、24時間父親と一緒だなんて、耐えられない。

だから、仕事をしている時が私にとって、一番幸せなひととき。