風薫る、五月。
初夏、一年でいちばん爽やかな季節に、ひとりの少年が桜ヶ丘病院の門をくぐった。
「こんにちは。今日はどのようなご用事で」
受け付け付近で、居心地が悪そうにうろうろしていた少年を見兼ねて、看護婦が声をかける。
「あの、面会ってできますか?」
看護婦は丁寧な調子で、できますよ、面会したい方の御名前は、と返した。
少年は戸惑いながら、口を開いた。
「伊藤すみれ……です」
今度は看護婦が戸惑う番だった。
伊藤すみれ。
あの「眠り姫」の名前ではないか。
彼女に面会に来る人はいないはずでは。
再度確認をすると、少年は、
「はい、間違いありません」
その声に、迷いの音色はなかった。
看護婦はさらに問いかける。
「失礼ですが、あなたと伊藤さんの関係は……?」
すこしの間をあけて、少年が答えた。
「彼女の、幼馴染です」
初夏、一年でいちばん爽やかな季節に、ひとりの少年が桜ヶ丘病院の門をくぐった。
「こんにちは。今日はどのようなご用事で」
受け付け付近で、居心地が悪そうにうろうろしていた少年を見兼ねて、看護婦が声をかける。
「あの、面会ってできますか?」
看護婦は丁寧な調子で、できますよ、面会したい方の御名前は、と返した。
少年は戸惑いながら、口を開いた。
「伊藤すみれ……です」
今度は看護婦が戸惑う番だった。
伊藤すみれ。
あの「眠り姫」の名前ではないか。
彼女に面会に来る人はいないはずでは。
再度確認をすると、少年は、
「はい、間違いありません」
その声に、迷いの音色はなかった。
看護婦はさらに問いかける。
「失礼ですが、あなたと伊藤さんの関係は……?」
すこしの間をあけて、少年が答えた。
「彼女の、幼馴染です」