君に出会わなければ…





「父の会社が倒産するまでの間、彼女に家庭教師をしてもらっていたんです。」



まさか話してくれると思わなかったから、今度は私が驚いて本から顔をあげた。



「いや、無理して話さなくていいよ!そんなプライベートなことだし、仕事じゃないし。どうせお父様は全部知ってるでしょ?それでも私と病院着いてくること許されてるってことは、お父様も溝口のこと信用しているってことだし。なんも支障ないし。私が今、余計なこと言っただけだから。気にしないで。」



彼の過去はあまり詮索しない方が良いというのは、5歳の私でもなんとなく感じていたことだったのに、今になって思いっきり彼の中に踏み込んでしまった。


ああ。やってしまった。また昔のように、笑わない彼に戻ってしまったらどうしよう。私が彼から笑顔を奪ったことになる。


私は溝口がうちに来た頃のことを思い出した。


あのころ溝口は全く笑わない少年だった。


またその頃の彼に戻ってしまったらと思うと。



「お嬢様、お嬢様!」



溝口に話しかけられていることに気付くのに数秒かかった。


はっと溝口を見ると、彼は笑顔で私を見ていた。



「10年も昔の話です。あの頃はたくさんお嬢様に心配をおかけしていましたが、もう平気です。それにこれは、お嬢様に知っておいて貰った方が私も気が楽です。」



そう言って溝口は話し始めた。



「私が中学1年で、高城先生は高校3年生の時です。そのころの私はいわゆる不良で、そんな私を見かねて父が、家庭教師を私に着けることにしたんです。最初はまあ嫌で嫌で。でもだんだん楽しくなっていって、ちゃんと彼女の授業も受けるようになって。彼女のおかげで、不良も卒業したんです。それから間もなく付き合うことになったんです。」



まさか、溝口に不良時代があったなんて。


そしてそんな青春時代があったなんて。