彼女は、初めての手紙が決して濡れないように、幾重にも幾重にも皮袋で覆ってから、少女に託す。

 それが──ロニの初仕事だった。


 ※


 貴族は、雨の日の外出を好まない。

 勿論、王宮で毎日仕事をしなければならない立場なら別だが、資産で暮らすようなそれ以外の貴族は、外が雨だと確認するや、家にたまっている書類の決裁でもするかと考える者も多い。

 そんな、貴族の時間の隙間に、ロニの運んだ手紙はするりと入り込んだ。

 1回目と、2回目の雨までは偶然だった。

 ただ、2回目の配達の帰り際に、ロニは相手方の執事にこう聞かれたのだ。

『わざと雨の日に持ってきてるのか?』と。

 その頃の彼女には、まだ自分の主人の考えはほとんど伝わっておらず、ただの配達人のつもりだったので、首をひねって曖昧な返事しか出来なかった。

 だが、それを主人である騎士令嬢に話すと、突然彼女は目をキラキラと輝かせながら『それは名案だわ、そうしましょ』と手を打ち合わせたのである。

 雨の日に、外に出るという侍女にとっても嫌なはずの仕事は、勿論すべてロニに任される。

 上はレインコートがあるのだが、足は普通の靴で、いつも相手方にたどり着く頃にはグチョグチョになって気持ちが悪かった。

 それでも、彼女は雨になる度に、主人の手紙を運んだのだ。

 そして、気づく。

 相手方での自分の待遇が、だんだん良くなっていくことに。

 最初は、本当にただのお遣いくらいにしか思われず、ジロジロ不審がられた目を向けられたり、『こんな日に手紙なんて』とぶつぶつ言われもした。

 なのに、ある日。

『雨なのに、いつも大変だね』と、そこの使用人に声をかけられた。

『持っていきなさい』と、執事に小さなお菓子の袋をもらった。

 その変化の理由を、ロニは気づかなかったが、主人には報告をした。

 騎士の娘は、たいそう喜んだ。

『お手紙にお礼を書かなくては』と、新たな手紙に向かい合うのである。

 そんな主人は、晴れの日には外を見てため息をつくようになっていた。

 晴れが長く続いた後の、雨の日。

 ロニは、いつものように手紙を持って、相手方の家に行ったのだ。

 そうしたら、玄関に回るように言われた。