車のドアを開けるじいちゃんの部下と思われるスーツ姿
の男がにっこりと笑う。
やっぱり少し怖いと思う気持ちがある。
秘書だと説明を受けて更に警戒心が増した。
女の勘は信じなさいって言う母さんの言葉が、
脳裏に浮かんでじいちゃんにさよならを言って後部座席
の扉が閉じられたと同時に秘書の男がにっこりとした
笑みをスッと真顔に変えた。
『貴女に選択肢なんてありませんよ。』
背筋が凍るというのはこういうことなのだと思い知った。
子どもながらこの人は危ないという危機センサーを発動
させて、後ろに後退る。
この人は何が言いたいんだろうかと頭の回転をさせても、
真意が全く読めない。
クスリと笑みを浮かべて凍るような瞳を向けてあたしを
責め立てるようなさっきとは打って変わる二面性に驚き、
言葉が上手く出なかった。
『貴女はいつも守られている。』
酷く恐ろしい光景だと思った。
口角を上げてニヒルに笑う男の人を見たのは初めてだった。
あたしの周りにはこんな人居なかった。
父さんもお兄ちゃんも兄ちゃんも真君も“あの人”だって
こんな笑い方しない。
『一ノ瀬グループの次期後継者になるしか
貴女には残された道はありません。』
震える手を必死に抱きかかえて秘書を見つめる。
「何故、あなたがそんなことを言うんです?」
あたしが気の強い子だったのは母さんの血筋だと思う。
『見れば見るほど貴女は似ている。』
じいちゃん、気付いて。
この人、可笑しいって!
冷たい手が頬を滑り落ちる。
「や、だ。触らないで。」
じいちゃん、あたしこの人が怖い。
パシッと手を払いのける。
『何もしませんよ。そんなに警戒されると悲しいものです。』
「信用なりません。」
また、蕁麻疹出そうだし距離を取らないと。
工藤先生のところに行かなきゃいけなくなる。
それだけは、避けないと。

