じいちゃんと2人で話したことはそれ以前も
それ以降もその日限りだった。
話は子どものあたしにはとても信じがたい
話でそのまますぐに理解しろというには無理があった。
『一ノ瀬』それは日本で名の知れる有名な財力持つ家。
日本では知らない人なんて決して居ないであろう
大きな家の名でそれがあたしの身近なところにあった。
それだけならまだしもその家を継ぐ資格があたしに
回ってきたのだと言う。
たった、9歳の女の子のあたしにだ。
もちろん、最初から断った。
あたしにそんな大きな名を継ぐ覚悟がまだなかった。
たった、9歳の女の子であるあたしに何が出来ると言うんだ。
そんな大きな名を背負うことになることは理解出来なかった。
父さんがそんな大きな家の息子だったなんて知りもしなかった。
優しい伯父さんがあたしの知ってる人じゃないのかもしれない
と思ったら怖くて逃げ帰りたくなった。
信じれるわけなかった。
あたしは普通の家の子どもだと今まで疑わずに過ごしてきた。
それが、たった今壊されたのだ。
父さんはあんなに馬鹿っぽいし、放浪の旅にばっかり
出かけて何してるのか分からない。
母さんだってそんなこと一言も言わなかった。
お兄ちゃんだって海外に旅立って勉強してると連絡を
貰うぐらいで、兄ちゃんだって1年前に旅立ったばかりのこと。
その時、あたしは改めて自分の過保護な環境を呪った。
今まで、あたしは何も知らなかった。
それは知らなかったんじゃない。
知らされなかった。
ウチの家族はみんなあたしを甘やかし過ぎなんだ。
『日和が自分で決めなさい。じいちゃんは、日和が
継いでくれると嬉しいんだけどね。嫌だったら無理に
継いで欲しいとは言わないよ。日和の人生は日和にしか
決められないことだからね。だけど、日和には一ノ瀬を
継ぐ資格があるということだけは忘れないで欲しい。』
もちろん、じいちゃんはあたしに無理やり継ぐようには
言わなかった。だから、あたしもその時はまだ継ぐ気はなかった。
だけど、それは簡単にも破られた。
じいちゃんが家まで送ってくれてその日はそのまま帰るはずだった。

