そして、来たバスに乗る間際ダンディーさん

のズボンポケットから財布が落ちる。

だ、大丈夫かなこの人大人だよね?

財布落としても気付かない人って居るんだね。

「すいません、落としましたよ。」

「あれ?落としたのか。」

バスはドアを閉めて走行し始めた。

手すりに捕まってバスにまた揺られた。

「君はよく気付いてくれるよね?」

「えっ、そうですか?」

「さっきはお礼を言いそびれてしまったね。

ありがとう、女子高生に痴漢から救って

もらえるとは思っても見なかったよ。」

あたしも男の人を痴漢する痴漢を拝見して

しまったものでビックリした。

「いいえ、だんっ、えっとあなたが

良い人そうだったので犯罪は未然に防ぐ

べきかなと思い、つい声を張り上げてしまった

だけのことですからお気になさらず。」

一瞬、目を見開いたダンディーさん。

「俺は良い人そうに見えるのかい?」

「はい?」

目を細めて聞いてくるダンディーさんに頷いた。

「君は面白いことをいう子だね。」

「そうですか?」

ちっとも面白いことを言ったつもりはない。

「少し、時間はあるかい?」

「へっ?」

一際、綺麗な笑みを魅せるダンディーさんに

釘付けになってポロっと鞄を落とした。

ハードボイルドな危険な匂いと甘いマスク

それが魅力的な人だと思った。

「お礼をしたいんだ。おじさん、こう見えて

お金持ちだから何か美味しいものご馳走するよ?」

「えっ、し、知らない人には着いて行くなと

言われていますからお気持ちだけ頂戴させていただきます。」

また、馨君に怒られちゃう。

いつも知らない人には着いて行っちゃ駄目だよって

口が酸っぱくなるほど言ってる。

あたしも耳がタコになるほど聞いてる。