信用出来る人じゃないからこそ疑いの眼差しを
向けて話だけは聞き逃すことなく耳を傾けた。
『そうですね、貴女様の歳でこのようなお話を
することになるのは不謹慎ですが、貴女は頭が良い。』
自慢話になるがあたしはその当時小学3年生だったにも
関わらず、周りからは異様なほどの天才児だと言われていた。
『すぐに理解して下さるでしょう。』
「あなたは誰何ですか?不審者には着いて行くなと
学校で注意を受けていますから帰らせてもらいます。」
スーツ姿の男は害のない甘いマスクに清潔なスーツが
印象的で、笑顔は張り付いた感じがして少しだけ怖かった。
だけど、小学3年生相手に膝を曲げて腰が低く大の
大人とは思えないその行動が悪い気はしなかった。
『それは順を追って説明しましょう。時間はまだ
十分にありますし、心配することは何もありません。
朝陽様は何も仰っていないんでしょうから最初から
理解出来るようにご説明させて頂きます。』
どうぞ、車にお乗り下さいと言われて後部座席を
開けるスーツの男に少しずつ警戒を強めた。
人攫いだったら悪質且つ上手いこと嘘ついて
子どもを騙せてるわ。
だけど、あたしを騙そうなんて思わないで欲しい。
「だから、知らない人に着いて行くなと・・」
にっこりと表情を変えないスーツの男に
苛立ちを覚えたその頃だった。
『日和、彼はじいちゃんの部下だから
心配することは何もないよ。こっちに
おいで、じいちゃんとお話をしよう。』
父さんにそっくりな笑みを浮かべるその人は
薄らと覚えてる顔。
ばあちゃんは瞳が綺麗な色をした人で、
たまにお茶を飲んでお話をしたことが
あるからばあちゃんに会うのはすごく
楽しみにしていた。その時に、たまに
顔を出していたのがじいちゃんだった。
だから、そんなじいちゃんが高級車の
後部座席から出てきたことに驚きを隠せなかった。
これは現実なのかあたしがお得意とする
妄想が混じってついにこんな高度な妄想
まで出来るようになったのかとしばらく葛藤した。

