主婦のお客さんと談笑しながらケーキを販売して、
残りも少なくなったと思った時に事件は起こった。
「これ、下さい?」
「はい、包装はされますか?」
何か、聞き覚えのある声だなと思って顔を上げると、
「げっ!!」
可愛いナル君のお目々と数分見つめ合った。
「ヒヨリン!?」
目を丸くして驚くナル君にサーっと血の気が引く。
キョロキョロ後ろを見るとやっぱりだ。
「な、何故だ。あたしの変装はバッチリだったはず。」
伊達眼鏡に二つ結びのツインテールをしてる。
これがバイトスタイルに定着しつつあった。
「えっ、マジで何で?」
「みんなー、ヒヨリンが居るっ!!すんげー可愛い
制服着てる!!」
ナル君がパニックになって後ろに居たみんなを
呼び出すからあたしまでパニックになった。
「何してんだ、お前?」
ちぃ君、これには理由があるのよ!
「日和ちゃん、資料集めしてるんじゃなかったの?」
馨君、嘘は吐いてない。ちゃんと、資料集めも
していたから・・・・・・!
「・・・・・ひ、人違いだわ。」
「何誤魔化そうとしてんだ。」
実に、参ったわ。こんな最後の日にしくじるとは
予定外の障害物だわ。
「こ、これにはふ、深い事情と言うものが!」
「日和、袋取って・・・・あんたたちやっぱり
日和のストーカーなの?」
サユが袋を持って登場した。
「あれ、サユリンと一緒だったの?」
「う、うん・・・・・・・・・・」
まさかの事態発生にフリーズするところで、
サユがふんっと腰に手を当てた。
「日和に用でもあるなら後にしてよね。」
頼もしいサユのお陰でその場は凌げたものの、
仕事終わりが恐ろしくなってきた。
とくに最後に見た馨君のブラックスマイルが
残されて、ストーブがあるはずなのに寒気が
して顔面が凍りつくような時間を過ごした。

