あたしは堪えてきたつもりだ。
「伊織君、何でみんな平気で居られるの?」
こんなの可笑しいじゃないか。
みんな何もしてなかったのに酷いじゃないか。
「慣れってーからな~」
「そんなの慣れるなよ。痛いよ、心臓が悲鳴
上げそうなほど悲しいよ。」
あたしが弱音吐いてどうするって思うも、
酷く悲しかったからどうしようもなくて。
「オメェは慣れなくて良いって言われたろ~?
あんま、思いつめんな。ひよこのお嬢ちゃんは
頑張って俺らを守ってくれたんだろ。」
「ぜ、全然力不足だ。もっともっと強くなるから、
誰にも文句言わせないようになるから!」
守るって結構難しいものだった。
口では大きなこと言ってのけられる。
「おー、そりゃ楽しみだな~」
「みんなと一緒にあたしも戦うから、何か
無性に腹が立つんだ。裏で手を引いていた
人間を見つけ次第ボコボコのギッタンギッタン
にしてやるんだわ!」
「何だそりゃ~」
惚ける伊織君にギョッと視線を向けた。
「えっ!」
「お嬢ちゃん、さっき肉まんくれるって言ってたよな?」
「う、うん?」
伊織君がスッと目を細めて手を差し出してきた。
「寒くなってきたからちょーだいよ。」
甘いマスクにとろけるような艶かしい声が
ゾクッと背中に電流を走らせる。
「い、要らないって!」
「食べたい気分になったのよ~」
「きゅ、急すぎるぞ!!」
うむっと唸りながらコンビニから渋々肉まんを取り出す。
「俺も寒いのは苦手だね~、ひと肌恋しくなる季節
じゃねぇ~のよ。ってわけで、ひよこのお嬢ちゃんが
温めてくれるのは万々歳だろ~。」
「何もそんなことは言ってないのだが。」
言いたいことは言えなかったような気がする。
ただ、伊織君が知らんフリするせいであたしが
騙されてあげなきゃいけなくなったのは確かで、
これ以上関わるなって言ってるようで肉まんを
齧る伊織君の服の裾を掴んだまま冬の寒さに
少し惑わされたのだと思う。

