この状況を早く脱出せねば。

伊織君が脳無しだったらあたしが作戦を考えて

どうにかしないと意味がないではないか!

今にも振りかざしてきそうな拳を振り上げてくる

男の口に向かって狙いを定めて袋から取り出した

歌舞伎揚げ煎餅を一応袋から取り出してベシッと

華麗に空中に放物線を描くように投げ込んだ。

「美味しく召し上がれ!」

すると、何故か煎餅なのに鈍い音が聞こえた。

バッタンと後ろに倒れるガタイの大きい男に、

一同騒然で口を開けて驚いていた。

「伊織君、今の内に早くこの場から離れるのだ!」

伊織君も目を丸くしてあたしを見つめる。

「あ、おう。確かにな~。」

唖然としている伊織君の制服の裾を引っ張って、

退場させるように瞬足な足で走り逃げた。

「・・・・・・・・・・・」

「伊織君、怪我してない?」

さっきのやり取りを見てないとは思うけど、

一応聞いてみた。

「いや、ねぇ~けど?」

「ならば、良い!ふ、ふぅー、追って来なかったぞ。」

とにかく、呆然としていたお陰だと思う。

「まぁ、ビックリだわな。」

「ん?」

「ひよこのお嬢ちゃんにそんな芸当があったとはな。」

「そんなことより、伊織君誰かに恨み買ったの?」

この人の場合女の人にたくさんの恨みを買ってそうだ。

「さぁな。」

「き、気を付けたまえよ!本気でいつか刺されるぞ!」

「まぁな~」

まだへらりと笑うか!

危なっかしいにも程があるわ。

「・・・・・伊織君、本当はそんなこと言いたいんじゃなくて!」

何か手のひらで踊らされてるような気がしてしょうがない。

誰かに今も見られているような気がするの。

本当はね、あたし知ってるの。

逮捕された犯人の中にあたしが見たオレンジ色の髪の男が

居なかったのをずっと知ってて、いつまたみんなを陥れる

か気が気じゃないんだ。

もうこんな視線を受けるような日々にしたくなくて、

やってもいなかったのにみんなへの視線が耐えられなかった。

平気な顔するけど、見てられないほどあたしにも分かる

ぐらいで、それまでの視線よりも悪意を感じるものも

混じっていて大声でやめろと叫びたくなる。